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2011.4.17

Panic syndrome

藤井健之
 

渋の湯にある駐車場には白いプリウスが一台だけ停まっていた。そもそも今日は平日で昨日は長野県でも地震があった。最初の取り付きでアックスを2本ザックの上に括りつけて下山中の登山者一人とすれ違ったのが人と会った最後だった。

樹林帯を抜けると雲ひとつない空の青と雪で覆われた真っ白な大地が強烈なコントラストを伴って視界に入ってきた。アイゼンを装着してピッケルを右手に持ち稜線へ向かう。峠に近付くにつれて風が強くなってきた。

稜線を一歩一歩アイゼンの効きを確認しながら登っていく、左手には大きく成長した雪庇が崖上に張り出していて、そちらへ近づかないよう右よりにルートを取った。高く壁のように見える急斜面では息を切らしながら、高度感への不安を頭から振り払いながら登り続ける、振り返ると気が遠くなりそうだから下は見ない。コツは斜度と雪質を判断しながらアイゼン、ピッケルによる確保を確実にして、不安を合理的に排除していくことだ。足元に固定された爪がしっかりと固い雪の層に突き刺さっている、右足、左足それぞれが。そしてピッケルの先端も同様だ。つまり仮に垂直の壁だったとしても落っこちることはない。

ただ不安は余計な想像というか妄想を続々と登場させる。雪崩れるのではないか、アイゼンの装着が緩くて外れるのではないか、滑落したときに背中から滑って制動ができないのではないか、急に足が攣って動けなくなるのではないか、上空1万mから航空機が僕の上に墜落してくるのではないか、などなど際限なく、もちろん頭の片隅では計算しておかなければいけないこともあるが不安に思うあまり、パニックになってさらに危険な状況に陥ることだってある。

昔海に潜っていたとき、あまりの気持ちよさに気が付いたら水深50m近くに達していて、酸素の残量計の針が目に見える速度で減っていた。水圧が高くなると酸素の消費量も速くなるのだ。パニックになった、浮上して酸素のあるところへ、急がないと。と頭の中はその一点になってしまったのだが、緊急浮上とは実際とても危険な行為で死に至ることもある、一方で水深が浅くなることで酸素の消費スピードも遅くなる、冷静に合理的に考えることができれば緊急浮上の必要もなく水面にたどり着けることが分かったはずだ。この時は近くにいた仲間が僕に冷静さを取り戻させてくれた。

頂上で猛烈な強風の中でタバコに火をける、いつもの習慣だ。空を見上げると航空機が白い線を描きながら飛んでいた。青と白二色の世界に僕はいる、開放された気持ちになった。

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このブログについて

湘南病にすっかり罹ってしまった私フジイは、この地で不動産屋「稲村ガ崎三丁目不動産株式会社(現 鎌倉R不動産株式会社)」を開業。
そして2008年12月15日稲村ヶ崎R不動産(現 鎌倉R不動産)を公開しました。なぜ鎌倉・湘南なのか、僕の体験を通してその理由をお伝えしてまいります。
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著者紹介

藤井健之

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