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2023.12.1

シリーズ・鎌倉R不動産が考える“鎌倉らしい風景とは”【4】 「鎌倉らしさをつくり続ける改装とは」

小松 啓(鎌倉R不動産)・写真=八幡 宏
 

鎌倉市坂ノ下の古い一軒家を改装しながら、「鎌倉らしさとは何か?」について考える連載、その第4弾。

「鎌倉らしさをつくり続ける改装とは」

改装後の室内|柱や梁、建具には洗いをかけたので、まるで若返ったよう

まさか、もう、このコラムが全4話であることを覚えている人はほとんどいないでしょうが、ちょっと書いてみようかというきっかけに出会うことができたので、第4話を。これまで書かずにいた言い訳を一切考えずに、最近の気づきと合わせて、この物件の改修工事についてまとめていこうと思います。

昨今の改装(リノベーション)工事や建築に、私は変化を感じるようになりました。簡単に言えば、ただ使いやすいとかカッコいいとか、そういったものを求めていないように思うのです。結構真剣に、「なぜつくるのか」に対しての答えとして空間がつくられていく。そうして思想的な側面が大きく前面に出てくるような建築が増えてきたと感じるのは私だけではないはずです。

これまで当たり前につくられていた仕上げと言われる壁や天井部分。具体的には塗装やクロス、天井板、巾木(はばき)、配線カバーなどは果たして本当に必要なのか。もし必要であるのであれば、それはなぜ?


外観|ここから改修工事の全容がはじまります

そう考えた時に、今回の改修工事もその息吹を無意識に感じていたのかもしれないと思ったのです。ここでは極力、引き算をして、そこに鎌倉らしさを加えることを追求しました。具体的には新建材はできるだけ取り払い、残された歴史を積み重ねた柱や梁に「洗い」をかけ、手間ひまをかけて磨き上げる。そして先述の話と逆行しますが、今回は鎌倉らしさを表現したいために、化粧を施しました。ただそれは空間をきれいに見せるためだけではなく、このエリアに馴染ませるため、そしてこれからの鎌倉らしい改修工事のあり方を考えるために試行錯誤を繰り返しました。そうしてでき上がったものだからこそ、シンプルな表現で説明できるのです。

“鎌倉らしさとは、外への美意識と身近な自然素材でつくられる”

ではその細部を説明していきましょう。


竹製配線モール|古い柱や天井板にもマッチしています

新建材に代わる素材を探し、あれこれ考えました。この建物を譲り受けた当初から気になっていたプラスチック製の配線モール(カバー)。ただこれを撤去して配線を剥き出しにしてしまっては、せっかく洗いをかけた空間が台無しになってしまう。辿り着いた素材は第3話にも出てくる鎌倉・湘南エリアにとって身近な自然素材である竹。配線モールは竹で応用可能です。とりわけ黒竹は空間に馴染みます。


洗いをかけた室内|中:大黒柱が威厳を取り戻す|右:廊下の天井はガラスで歴史を見せる

内部空間は洗いをかけたおかげで、木の色味がきれいに復活しました。そのおかげで今まで目立っていなかった大黒柱はあるべき存在感と言いますか、威厳を取り戻しました。さらに新建材天井で隠されていた廊下の天井下地も美しかったので、飛散防止加工を施したガラスを用いて照明を仕込んでみました。


小屋組|この天井小屋組を見せるため、大黒柱をうまく残すため、気の遠くなる工夫がされている

第2話で神様からのプレゼントだと書いた天井裏。柿渋を塗布された立派な梁で組まれた小屋組が現れたのですが、これをどう見せるか。とてつもなく作業手間がかかる試行錯誤を繰り返し、大黒柱を中心に梁が掛かるさまを現すことに成功しました。


こうした濃厚な内部空間と外の陽射しによる演出が絶妙なバランスを生み出す

内装|古き良き空間を生かすための挑戦

内部はどこまで古さを残していくか。このバランスに時間をかけました。洗いをかけた空間と既存の傷や落書き跡が残る左官の壁。そこに古びて破れた箇所もある襖(ふすま)をどう合わせていくか。単純に襖紙を貼り替えてしまってはそこだけ浮いてしまう。そこで古い襖紙の上にまわりの雰囲気に合わせて調色した塗装をかけて破れた部分に銅のシートを貼る。すると襖の引き手と相まって、楽しげな雰囲気が生まれました。これから春夏秋冬、潮風を浴びたりしながら変色していく経年変化が楽しみ。


外部|竹でつくった雨樋はししおどしから着想を得ている

雨樋。これは鎌倉R不動産の建築チームでこれまで行ってきた改修工事や新築工事で再三話題に出る事柄で、人により考え方はそれぞれあります。私の個人的な思いとして、雨樋は欲しい。ただし素敵な雨樋がない。そんなわけで、今回は自社物件ということで、思い切って竹でつくってみました。節を切ってロウを塗って、縦樋との連結部分はまるで「ししおどし」的な仕上がりに。

自社物件であることの強みを生かして、この樋にしました。この建物は現在賃貸中ですが大家は私たちです。この竹樋はまだまだ実験的で落ち葉や大雨や雪などがあれば、我々がチェックする。大きな出来事がなくとも経年変化で朽ちていく。

それで良いのです。壊れたらまたつくる。
鎌倉らしさをつくり続ける循環をつくりたい。

こうした覚悟を持って製作した雨樋です。私はこれが鎌倉らしさにつながると考えています。身近な自然素材は入手することは容易です。むしろ間伐する必要があるので、材料は捨てるほどある。そこに鎌倉の職人の手が必要になるのです。それも頻繁に。職人さんが竹樋を補修している姿は鎌倉に似合います。この風景こそが、鎌倉らしさだと信じて続けていきたい。

さらに、この竹樋が今後の職人不足の解決に一役買えないだろうか。と思っています。竹樋補修の姿を見て子どもが自分もやってみたいと思うかもしれません。それであればこのエリアの工務店さんと一緒にワークショップをやってみてもいいかもしれません。それがきっかけで、鎌倉で建物のメンテナンスがしたくて職人の道に進んだ。そんなことが起きたらいいな。なんて思いながら、ごきげんに修繕し続けたいと思っています。

鎌倉らしさが職人さんの手に宿った瞬間

この一工夫に興味を持って取り組む職人がいるということがうれしい

これが鎌倉中に使用されると、いよいよ鎌倉が一層、素敵になっていくはずです。この改修工事で、その小さな一歩とも思える出来事が上の写真のふたつの仕上げです。

左の照明、実はこの位置にはこの家に長くお住まいだった方の表札があった場所。表札を外してしまうと、この部分だけ塗装がどうしてもキレイで気になる。でも上から塗りたいとも思えず、考え込んでいたところに、竹樋で試行錯誤していた若いスタッフを見て「はっ!」として、その場で照明をデザインし、作成を依頼しました。細かい角度の相談も快く受けてくれて、何よりこうしたリクエストに楽しそうに参加してくれる姿勢がうれしかったです。

右の写真はアルミ製の勝手口扉の支柱をカットして残った足元。ただ埋めるのではなく、この地に転がっている石を埋め込んでくれたりして。

この現場に入ってくれた職人さんたちが、少しでも面白みを感じてくれたのであれば嬉しいです。そしてこうした体験がこれからの鎌倉らしい風景をつくっていくのだと思います。

この様な手仕事を積み重ねてできた空間がこちらです。こうして改装内容をよく味わってから見ると、縁側から見える海がなんともありがたいものに見えてきて仕方がありません。


室内|洗いをかけた空間は木目の美しさが際立つ様に、抑えめの色味で床を仕上げている

縁側から見える海|肉眼では右のように見えることがあって、そんな日はいいことありそう

左:陽に当たる建具は飴色になりました|右:外構もずいぶんと馴染んできました

こうして参加してくれた職人さんたちやこれからこの建物に訪れてくれる方たちが、「鎌倉らしさ」を感じ取ってくれるのであれば、鎌倉の未来は明るいのではないかと思ってしまいます。
さ、次は竹樋補修用の竹はしごでもつくろうかな。


この縁側に、鎌倉らしさをたくさん詰め込みました!
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