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2010.9.3

3450

藤井健之
 

富士山を登った、正確に言うと九合目付近までだけど。
スケジュールの関係で午後3時30分に五合目を出発した。

ゆっくりと歩いた、高度のせいか軽い頭痛がする、見上げると森林限界を越えた赤茶色の山肌が青い空をすこしいびつな三角形に切り取っている。
湘南から見慣れた山の形ではない。紫外線のせいか空気の色も違う。

ひさしぶりの山歩きだ。高度を上げるにしたがって気温も下がり、暑さが遠のいていく。斜面をジグザクに切り取った単調な登山道がえんえんと連なっていて、見下ろすと湖と町、そして右手の稜線のずっとさきに太陽は沈んでいく。空の色はこくこくと変わって、淡い光が濃い光へ、そしてゆっくりと暗闇が訪れた。
足元を照らすヘッドランプの光をたよりに一歩、また一歩と足を前に出す。汗は乾いて涼しくなってきた。
山を歩く時は、なにかを考えているようでなにも考えていない気がする。
次の足をおろす場所を慎重に選んで砂利を踏みしめ、そして反対の足を上げる。のどが乾いたら、歩きながら水を飲む、腹が減ったらおにぎりかチョコレートをかじる、寒いと思ったらレインジャケットかフリースかどちらが適当か、どこでバックパックを下ろすかなどぼんやりと迷っていたりする。

斜面には一定間隔で山小屋があった、小屋と小屋の間は暗闇だ、はるか下方に町の光が見える、空を見上げると星。道の先にはほのかに光が見える、次の山小屋だ。
とりあえずその明りの場所が目標となる、そこで何かとてつもなく素敵なことが待っているわけではないことは分かっている。
ただ足を前に進める理由を手に入れた、ということだと思う。

3450mの表示があった、頂上まであと40分のところで下山することにした。いまならまだ温泉に間に合うかもしれない。そう、頂上に立ちたいわけではなく、ただ前に進みたいだけなことに気が付いた。
その理由がなんであれ。

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このブログについて

湘南病にすっかり罹ってしまった私フジイは、この地で不動産屋「稲村ガ崎三丁目不動産株式会社(現 鎌倉R不動産株式会社)」を開業。
そして2008年12月15日稲村ヶ崎R不動産(現 鎌倉R不動産)を公開しました。なぜ鎌倉・湘南なのか、僕の体験を通してその理由をお伝えしてまいります。
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藤井健之

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