伝説の不動産屋と半島を駆け抜けた。
「海の似合わない客には紹介しない」と言ったとか言わないとか、湘南の不動産屋として突き抜けた価値観を持つその人に相応しい逸話だ。ずっと会いたかったのだが、駆け出しで底の浅い僕はまだその時期ではないと思っていた。
「半島を案内するよ」、普通にでも目を輝かせてLEGENDは言ってくれた。彼の物件の多くは図面化されておらず価格も決まっていないものが多い。半島を横断し縦断し、彼は僕に珠玉の物件の数々を見せてくれるのだ。
出発前、ステンドグラスの嵌ったカウンターのある書類の山の中に灰皿の埋まった低いテーブルのある彼のオフィスで、LEGENDは住宅地図を何枚も何枚もコピーして貼り合わせて巨大な地図を作った。そして赤いマーカーで丁寧に物件の所在地を地型に合わせて記入していった。
後で気づいた、宝探しの地図だ。
畑の中に続く一本道、その先の岬一個。
外界から隔絶されたビーチと洞窟と断崖と廃墟化した旅館。
穏やかな入江に接する土地、背後は森。
など、すべて売り物だ。
ありえなかった、少なくとも都心に近いこのエリアでは手に入らないものと勝手に思い込んでいた。海や森を求めてこの地にやってきた人たちが、いや、僕が欲しいものだった。
入江に向かって立ちつくす僕の背後でLEGENDはタバコに火をつけた。
欲しいものを素直に追い求め続け、何もあきらめない、少年時代の宝もののそれだ。
広告の裏紙にLEGENDは未来のランドスケープを描き続けている、何枚も何枚も。