時間よ止まれ

よく今まで残っていた、いや残してくれたと感謝の気持ちになった建物です。築50年以上という歳月のなかで、設備などは更新され、工事を繰り返すことによってオリジナル性は失われていくものですが、ここは時が止まったような空間です。オーナーの考え方なのでしょうね。

レトロな駅舎の大磯駅から歩いて3分ほど。私が知っている限り、物件のある建物までの風景は、小学校の校舎が建て替わった以外あまり変わっていませんでした。

建物の入口は南北の棟の間にある階段。ガラスブロックからの光がうす暗く照らしています。昔ながらの鉄の扉を開けると、どの部屋にも窓があり明るく、壁などは塗り直されていましたが、建具や水まわりの設備、レイアウトは建築当時のものを使っています。

間取りは12帖のリビングと8帖、6帖の洋室。床はレトロな意匠のクッションフロア。各部屋のドアは当時のものをそのまま使っています。

築年が古いマンションでは風呂やトイレが更新されていることがほとんどですが、ここは全体が白くペイントされタイル張りの床に配管がむき出し。バスタブこそ最近のもに替えられているものの、トイレはおそらく当時のまま。竣工から時が止まったような空間でした。

四角くクリームがかった色の建物は、1階にこの建物全体の所有者が経営するヘアサロンがあります。昔、数々のメンズファッション誌、特にアイビー・トラッド特集でたびたび取材されていました。

アイビーカットやクルーカットと呼ばれたヘアスタイルが特長で、店の横にはご主人のオープンカーが止まり、前を通るといつも洒落た兄さんたちが出入りしていたのを覚えています。今は休業していますが再開準備中とのこと。当時は全国からファンが来店されたそうです。

久しぶりにここを訪れ今も変わらない風景と建物に、いつまでもこのままでいてほしいと願うのです。