2017年10月12日、鎌倉にて行われた「地域資本主義」についてのトークイベントのレポート、後編をお送りします。
(前編はこちらからどうぞ)
第2部 全国のR不動産による取り組み
司会「暮らしの豊かさに寄与するような地域ごとの資産というのは実際ある。じゃあ今度は全国のR不動産の方に話をお聞きしてみます。結果的にそれぞれの地域で今、どういうことが起き始めているのかを肌で感じることができ、そこから地域資本というものが何かも見えてくると思います」
R不動産のグループサイト「real local」。その土地に暮らす人がヒト・シゴト・場所など地元の情報を発信する。 吉里「東京R不動産の吉里です。現在全国で10地域のR不動産があるのですが、実は3年前から、R不動産だけではカバーできないような地域も含め、ローカルを結んだメディアを始めています。不動産物件も載せていますが、それ以外にその地域の面白い人や、店、宿、イベント、そういう情報にフォーカスしています。サイトの開設も、神戸R不動産の小泉、金沢R不動産の小津、福岡R不動産の本田が中心となり、地方のR不動産からの声掛けでできた。東京主導でないメディアの成り立ちという点でも興味深いと思っています」
小泉「神戸R不動産の小泉です。real localがスタートしたきっかけですが、我々はR不動産として物件の仲介をさせていただいていて、日々ネットで物件にお客さんから問い合わせがあって返信するというルーティンなわけですが、メディア自体がユニークな人で知り合うことのできる“タッチポイント”になっているんですね。R不動産を運営しているとそういう人との接点がものすごく大事だということに改めて気づかされる。そうなるともっとそういう魅力的なタッチポイントが増やせるメディアのチャンネルがあるといいんじゃないか、という気になってきて。たとえば仕事とか、みんなが集まる場とかイベントの情報とか。引いてはそのタッチポイントの充実によって移住とか、人の移動も活性化していくのではないか。そういう話を他の地域でR不動産をしている仲間たちにしたらすごく共感してもらえて、それで新メディアを立ち上げることになったのです」
real localは地方のR不動産の運営者からの声掛けでスタートした。左から金沢R不動産・小津誠一、福岡R不動産・本田雄一、神戸R不動産・小泉寛明。 小津「金沢R不動産の小津です。僕はもともと設計が本業で、つまり不動産と設計どちらもハードを扱う商売をしているわけです。でもR不動産を運営していると、人とか、仕事とか、街のいろんなイベントとか、ソフトがどんどん蓄積されていく。だからreal localを始めるにあたり、ハードとソフトをセットで発信することで次の推進力がつくれるのでは、という予感がありました」
司会「R不動産を運営している中でソフト面への意識が強くなったということですが、最近R不動産に参加された京都の水口さんはその辺りはいかがですか」
水口「京都R不動産の水口です。サイトを起ち上げてまだ9カ月です。もともと京都生まれで、東京で働いた後Uターンで戻りました。『地域資本』についての話を聞いていて思ったのですが、R不動産のウェブサイトって、真ん中の列は物件ですが右側にコラムというのがあるんです。僕がR不動産を始めるにあたってびっくりしたのがこの右側のコラムで、そこでも街を編集して再発見する視点が物件と同じくらい求められるところでした。京都に10数年ぶりに帰ってきて、もう一回街を見直してどういうところが面白いのかを改めて発見する意味でコラムはすごく重要でした」
R不動産のアイコンは地域を見つめ直す行為
全R不動産のアイコン(クリックすると拡大できます) 水口「加えて、R不動産って地域ごとにアイコンをつくるんですけど、そのラインナップを決めるのにものすごく時間をかけているんです。京都は決めるのに半年くらいかかりました。同じR不動産でもここの部分がすごく違う。ここを考えるのが街とかそこでの暮らし方を見つめ直すコツであり、ある意味さっきの『地域資本を考える』こととつながっている気がします」
冨ヶ原「鹿児島R不動産の冨ヶ原です。鹿児島もアイコン決めるのにずいぶん時間がかかりました。一番上が『桜島』です。鹿児島は市街地に平坦地が少なくて、崖地の上に住宅地がたくさんあるんですけども、住宅地から見える桜島がひとつのステータスっていう側面があって、そこに建っている住宅や土地は付加価値があるのです」
(左)大阪R不動産・中谷ノボル、(中央)京都R不動産・水口貴之。 水口「京都は『五山/眺望』というアイコンがあります。京都って窓から大の文字が見えることがすごくいいという考え方あるんです。単に眺望が良いだけでなく、山に書かれた五山の文字が見えるのが良い、という感覚ですね。僕らが物件案内しているときも、『ここ、大見えますか』とよく聞かれます」
小津「金沢が一番上に持ってきているアイコンは『金澤町家』。また『百万石の景色』というアイコンが3番目にあります」
鎌倉R不動産では、湘南地域のもっとも海寄りを走る国道134号線に沿って建っている物件の希少度を表して、「一列目」というアイコンで表現している。(海に対して最前列の家という意味) 小松「鎌倉R不動産の小松です。うちは一番上は『一列目』っていうアイコンです。鎌倉は相模湾に面して国道134号線がずっと走っています。ですから鎌倉市で、134号線に沿って建つ物件が海に対して最前列の建物と定義をしています」
地域ごとに工夫 ビジネス手法
司会「みなさん、効率だけを求めたら、よくある不動産物件サイトで表示されるような駅近だったり、そういう条件で見つけられると思うのですが、そうじゃない特徴をアイコンで表現しているってことですね。その上で、そこから何が起こっているかというのをお聞きしたいです。移住や、人の移動にまつわるエピソードはありますか」
鎌倉R不動産・小松 啓。 小津「金沢R不動産のこれまでの成約の人は、関東圏が4割なんです。IターンUターンを考えている人がかなり見ているってことですよね。移住者って子どもが理由で動く人が多いんですけど、きっかけとしては食が大きい。金沢に仕事で縁のできたクリエイターが、金沢に来るたびに寿司やら海の幸やら肉やら、地元の旦那たちからもてなしをされて。そして、そのときに出てくる器とか、食にまつわる文化全般のクオリティーが高いことに魅了されて。最終的にその人は移住したのですが、今はIT関係で移ってくる人も多くて、デジタルで工芸を作るベンチャーなども移住者の中から出てきています。食と工芸は金沢らしい資本かなと思います」
神戸R不動産の事業者は、地産地消のファーマーズマーケットの運営も行っている。 柳澤「アイコンの話は、街の魅力そのものを表している気がして改めて面白いですね。先程馬場さんが、同じR不動産でも土地によって稼ぎ口が違うとおっしゃっていましたが、それぞれどんな事業をしているんですか?」
小泉「神戸はR不動産と合わせて、地産地消のファーマーズマーケットに力を入れています。段々と盛り上がりを見せており、収益的にも貢献するようになってきました」
福岡R不動産では行政と連携して「トライアルステイ」のプログラムを数多く実施している。 本田「福岡R不動産の本田です。福岡は行政をクライアントとしてトライアルステイというプログラムを行っています。空き家を行政で借り上げて、町に移住に少しでも興味がある人に3週間くらい無料で貸す、いわば『試し住み』の期間を設けて実際に移住するかどうか考えてもらうものです。福岡県の60ある自治体のうちこの5年で21の自治体とこのプログラムを実施済です」
小津「先程お話したとおり設計と不動産が基本ですが、その他飲食店を3軒経営しています。あと弊社が再生した町家に非常に大きなものがあって、6店舗くらいの小商いを集めて、それを取り仕切る百貨店業みたいなこともしています。町家を使った宿の事業も行っています」
山形R不動産・水戸靖宏は不動産屋にして農家をしている。その模様を綴ったブログ。記事タイトルがすべて音楽の曲名というこだわりにも注目。(クリックすると、ブログに飛びます) 水戸「山形R不動産の水戸です。僕はR不動産のかたわら、農業をしています。山形なんで、さくらんぼと、ラフランスと、りんごを作っていてですね」
働き方が変わると地域の価値指標も変わる
司会「あっという今に時間がなくなってしまいました。会場のみなさん、何かご質問ありますか」
会場「二拠点とか多拠点の暮らし方は自由があって良いなと憧れているのですが、テクノロジーの発展によって働き方が変わりつつあると言いながら、現実にはまだ多くの人々の暮らし方はそれほどダイナミックに転換してはいない気がします。そういう働き方・暮らし方が促進されると、空き家問題や過疎の問題、働き手の問題がこうなるとか、具体的な実感はありますか」
大阪R不動産の代表・中谷ノボルは1年のうち10カ月は沖縄にいる。社員とリモートで毎週会議をする。 中谷「大阪R不動産の中谷といいます。リノベーションの会社を経営していて大阪が本社で、沖縄でも支店があるんですが、自分自身は代表でありながらもう随分前から、1年のうち10カ月は沖縄という暮らしを続けています。大阪とはネットでつないで会議も毎週行っているので、僕も社員も違和感がもはやない。社員も半数は僕が沖縄に行ってから入った人なんで、たまに大阪で会うと『あ、生(ナマ)や』って言われる(笑)。最近は沖縄でさえ冬が寒く感じられてしまって、2月は東南アジアで仕事してるんですが、大阪のスタッフにしてみれば、沖縄でも東南アジアでも一緒ですよね。
さらに今年からは、社員の出社義務をなくしたんです。完全にどこで作業やってもいいよと。そうなると引越しする人が出てくる。設計スタッフのひとりが、淡路島に越しました。現場に行くのは週に2、3回。公共交通ならバスで1時間、フェリーも夜の11時台くらいまであるらしい。だから意外とやってみたらいけるなという。こうなると、通勤圏が変わっていくわけですね。都心部の周辺とさらにそれより少し遠いところの物件や地域の価値が、ちょっと変わっていく気がしています」
司会「最後、吉里さん、まとめていただけますか?」
吉里「本日は地域資本主義がテーマでしたが、地域主義と資本主義、ベクトルが逆なのに接続されているのが面白いという話を馬場がしていましたね。僕らが行っているR不動産という事業の主軸は不動産業です。ただ、それでいながら、資本主義と地域主義という、ある種の対立概念を何とかして両立させようとそれぞれ地域で工夫しているところが、R不動産らしさなのかなとも思っています。何より彼ら自身が、移住もして新しい住まい方も働き方も実践している体現者たちなので、関心のある方はぜひ話してみてください!」
(後列左より右へ)東京R不動産・林厚見、鎌倉R不動産・小松 啓、金沢R不動産・小津誠一、東京R不動産・吉里裕也、大阪R不動産・中谷ノボル、鹿児島R不動産・冨ヶ原陽介、山形R不動産・水戸靖宏、神戸R不動産・小泉寛明。(前列左より右へ)第2部司会の佐藤純一(カヤックLiving 取締役)、土屋敏男さん、東京R不動産・馬場正尊、面白法人カヤック・柳澤大輔、京都R不動産・水口貴之、福岡R不動産・本田雄一。 イベント後の懇親会の模様。 「R不動産サミット in鎌倉」会場写真すべて=松永 勉
(2017年10月12日 KOTOWA鎌倉 鶴ヶ丘会館にて)