稲村ヶ崎R不動産(現 鎌倉R不動産)初期の名作物件「第4走者募集」。4代目としてこの物件を受け継ついだ中川さん、居住後6年が経って、ご家族が増えるとのことで改装の依頼をいただきました。
愛着を持って住み継ぐ
すっぱりと割り切って6年前に購入に踏み切った中川さんご夫妻。
2009年に稲村ヶ崎R不動産(現 鎌倉R不動産)で掲載した「第4走者募集」というタイトルの集合住宅だ。
「第4走者募集」当時の募集ページ (※クリックすると当時の募集ページ全体が見えます) 1969年8月築の旧法地上権付で、当時の神奈川県公社が県内初の高層集合住宅として分譲した「藤沢駅南口分譲共同ビル」だ。その実直な名称からも分譲マンションが希少だった時代背景が伝わってくる。
藤沢駅南口分譲共同ビル築46年の風貌。端正なのです。 掲載時のオーナーは分譲から3番目の住まい手で、それまでの家電製品の大型化に伴って、ひとつ究極の選択を突きつけられた。洗濯機だ。もともとバスルームが定位置であったが、洗濯機の進化とサイズアップに伴ってバスタブのある状態では設置することが困難だったのだ。そのときのオーナーの決断がなんともユニークで、なんとバスタブを諦めて洗濯機を置くことを選び、バスルームはシャワーのみとし湯船に浸かりたいときは駅北口の銭湯に行く、というものだった。当時リノベーションの極意のようなその潔い判断にとても感銘を受けた思い出がある。
「昭和が好きなんです」
さて4代目としてここを受け継いだ現オーナーの中川夫妻より居住後6年が経過して改装の相談をいただいた。
実は中川さん、洗濯機置場をトイレ前のスペースに新設しバスルームにはバスタブを復活させるという改造は購入後に実施していて湯船の問題は解決していた。ところがバスルーム内の洗面所が狭いことは変わらず、それに家族が一人増えたことと働き方の変化に対応した暮らしやすい機能や空間に進化させたいという動機による改装の依頼だ。
改装の内容としては、床板の張り替え、キッチンダイニングとリビングを仕切る垂れ壁を解体撤去しひとつの空間にする、バランス釜の撤去と新たな給湯器の設置、キッチンと連続した収納、寝室にカウンターデスク兼収納棚の造作、そしてバスルームと洗面所のさらなる進化、などである。
ただし、「昭和が好きなんです」とご主人は何度もこのフレーズを口にする。この部屋に残る分譲当時のままの建具や設備、現しの柱梁などいい感じの古いものは残しつつ改装にも生かしたいという願いが凝縮された言葉なのだ。
中川夫妻はここを購入する前は、藤沢で賃貸物件に暮らしていた。払い続ける賃料がもったいないと思い始めたことと、自分たちで造作が加えられる家を求めて売買物件の探索を始めた。だが物件探しは容易ではなかった。ご主人は藤沢勤務だが奥様の職場は新宿、通勤を考慮すると藤沢駅から徒歩圏を対象エリアとして探していた。ところが価格の高さに驚いたと言う。「二人とも宮崎県出身ということもあって、一戸建てではないマンションに数千万円を出すイメージがなかったんです。それにクロスが張られた内装がどうにも馴染めず新築には興味を持てませんでした」
「そんな中この物件の古い内装や設備に惹かれました、そう絨毯の端がピンで畳に留められているようなイメージです、昭和ですね。それに何よりも広さ(48.78㎡)が僕たち二人にとってちょうど良かったのです」
「それに、ここのいいところは、高い天井、随所に張られたタイル、竣工当時のレトロなキッチンと現役のコンロとオーブン、それに壁は自分で塗装できる状態であること、子供が落書きしてもいつか塗れればいいから。それとトイレにある剥き出しのパイプも雰囲気ありますよ」確かに、中川家の子供は自由奔放に納戸の引き戸の壁紙に大きな作品を描いていた。
まだ現役のキッチンコンロ。ロゴがかっこいい。 中川夫妻にとって今回の改装は、現に存在する昭和な素材やテイストと暮らしやすさの両立をどう実現させるかがテーマとなる。統一感のあるトーンで全体を仕上げて古い物を覆い隠す、旧い設備を新しいものに更新する、といった改装ではないのだ。いまだ現役で活躍している竣工当時のキッチン設備は改装後もこの部屋の主役であり続ける。
打ち合わせ風景。中央が中川サン、右手前が奥様、両親に挟まれてジュニアも熱心に説明中。左奥は当社のタカハシ、左手前がエザキ。 仲介してから約6年経過して再訪した。竣工当時から引き継がれてきた設備や建具はそのまま、そこに中川夫妻の好きな家具が配置され、照明がぶら下がり、好みの色で塗装された壁が明らかに住み手の変わったことを印象付けてくれた。さらに当時はいなかったお子様ともう一人(一羽)の存在が部屋の照度をぐっと引き上げているように感じた。
ということで、中川家改装計画がはじまる。
改装後の状況は後日後編にて。