湘南のR事情、始めます。
記念すべき第一回は、両側に山の尾根、中央に海の稜線、そして手前にゴトゴト走る江ノ電、まるでジオラマのように完成された素晴らしい眺望を持つマンションから。 この物件、実は稲村ヶ崎R不動産(現 鎌倉R不動産)の成約第1号物件でもあるんです。
両側に山の尾根、谷戸の地形に点在する民家と木々。そして陸地の果てに見える海の稜線。これがベランダからの眺望なのです! 夏目彰さん、yumiさんご夫婦。 想像力の先に手に入れた景色
江ノ電極楽寺駅から徒歩5分ほど。急峻な坂をぐっと登った先に見えてくる白いマンション。天井から床までの大きな開口部に、各戸すべてが南面しプライベートなバルコニーを持つギザギザの配置。1960年第後半に建てられたマンションならではの期待を裏切らない美しいプロポーションだ。
コンクリートの躯体にベランダの青い枠が映える。 「ここを購入した決め手は、一番には部屋からの景色の素晴らしさですが、同時に外観やアプローチもとても気に入って。」
オーナーの夏目彰さん、yumiさんご夫婦は、この物件に住むまでは、長らく都内で生活し、都内で働いていた。そして5年ほど前、彰さんが山に「ハマッた」ことから生活が変化していく。山を歩き自然に触れるほどに、暮らし方も変えたい、と漠然と思うようになり、物件探しを始めた。
左:玄関の扉も青! 右:広いベランダはDIYスペースにも。 最初は都内外の両方で探していたが、あるとき鎌倉で広大な土地に古民家がちょこんと付いた売買物件に出会った。価格はなんと450万円! その物件は借地権付きであったことや人里離れたさびしい場所であったことなどから、成約までには至らなかった。
けれどもそこで「例えば、車が入れない場所は途端に安くなる。鎌倉は高いイメージがあったけど、条件を絞ってよくよく探したら掘り出し物がみつかるんじゃないか?」と思うように。
それから数ヶ月後、稲村ヶ崎R不動産(現 鎌倉R不動産)のフジイから今回の物件を紹介された。価格も一千万の大台にのぼらない、鎌倉の相場から考えても破格の安さ。まさに掘り出し物との出会いだった。
リビングにベランダからの心地よい光が差し込む。ときおり鳥のさえずる声も聞こえてくる。 「一通り探して、引っ越し熱も少し冷めていたころに出会ったのがこの物件でした。」
もちろん難点がない訳ではなかった。急な坂。そして変形の間取り、面積40平米は二人で住むには少し狭いかもしれない。リノベーションも必要となるだろう。想像力が要求される物件だった。
ただ山好きの二人にとっては、坂を登ることはさほどの問題ではなく、現状の狭さも窓からの景色には代え難かった。内部空間は自分たちでどうにでも変えられるが、景色は代えられないのだ。決断まで時間はかからなかった。
こうして2008年6月、記念すべき稲村R不動産(現 鎌倉R不動産)の成約第一号物件が決まった。
ベランダでのんびりしていると、江ノ電が12分間隔でゴトゴトと走っていく姿が見える。 空間をあますことなく
「もともとの間取りは、キッチンと畳の部屋が壁で仕切られていて、部屋には大きなクローゼットもあり狭い印象でした。そこでいったんスケルトン状態に。天井も床もクロスも剥がし、壁も抜いて、空間をひとつにしました。」
自分たちで間取りを考え、工務店ではなく大工さんに工事を直接依頼。フローリングを貼ったり、壁を塗ったりなどできることは自分たちの手で。収納家具も内装の仕事をしている友人に手伝ってもらい制作した。
玄関から入って手前のキッチンエリアは、以前は天井が梁の高さまで下げられていたが、リノベーション後は水道管なども剥き出しのままにして高くした。造り付けの家具を作らず壁に直接棚を付け、収納をオープンにしているところも空間を広く感じさせる潔い決断だ。
結果、40平米という数字からはまったく想像できないほど、広々としたワンルームができあがった。
左:キッチンはイケアでそろえた。シンプルなものを組み合わせて発注し、値段も抑えることができた。右:左手の家具は、ベッドエリアとキッチンエリアを間仕切る可動式の収納ボックス。手前にかけられているのショッピングバックは美術館のショップやセレクトショップで販売している「スーザンベル」のもの。彰さんが仕事で取り扱っていたデザイナーの商品だ。 美味しいごはん、そして第三の仕事場としての電車
実際に住んでみての感想を尋ねてみた。
「窓からの景色は飽きることがないですね。山も海も季節によってまったく変わるんです。4月はパステルカラー、5月は新緑……。一つとして同じ表情を見せず、いつも四季を感じることができる。」
「それから、何を食べてもめちゃくちゃ美味しい。これはちょっと意外なほどでした。海も近いから魚も新鮮だし。しかも安いんです。」
ちょうど取材におじゃましたのはパステルカラーの季節、ヤマザクラの淡い色が添えられて山がほんのり上気しているかのようだった。広い窓から柔らかくリビングに差し込む光のなか、この場所で大切な家族と食べるごはんは素材の美味しさ以上、また格別に美味しいだろう。
そしてもう一つ、彰さんにとって意外だったのは、都内の会社への電車通勤が苦痛ではなく、むしろ第三の仕事場として機能したこと。
「乗り換えのない横須賀線の一時間ちょっとが、実はとても仕事がはかどったんです。それに都内に住んでいた頃は夜中までずるずると仕事をしちゃっていて。11時過ぎに会社を出られれば終電に間に合うので思ったよりも遅くまでいられるし、逆によい切り替えになったと思います。」
朝の通勤ラッシュ時はさすがに座ることはできなかったものの、少し出勤時間をずらすことができれば行きでも座ることができた。細切れの乗換をするよりも、一時間ぎゅっと集中できる時間があること、それをアテにできることは心強い。デスクに縛られない内容ならば、仕事をする場所はたくさんあるほうが良いと思う。彰さんの言葉に、ワークスタイルが自由になる術をひとつ垣間見た。
ここから始まる「山と道」
この春、二人は会社を設立した。その名は「株式会社 山と道」。アウトドアメーカーとして、ハイカーである彼らが本当に必要だと思う道具をつくり、世に送り出していく予定だ。
「山と道 U.L.HIKE&BACKPACKING」サイトのトップバナー。U.Lはウルトラライトの略です。(画像をクリックするとHPに飛びます) 彰さんはこれまでアート、デザイン関連の企画会社に15年ほど勤め、今年3月に辞めたばかり。実はなんと、あの有名なGASBOOKに立ち上げから携わり、またユニクロのUTコラボTシャツの企画など、国内外のクリエイターを発掘し、多岐にわたる活躍をされた方。そしてyumiさんは衣裳制作会社に勤め、その後10年ほど前に独立し、フリーで衣裳制作の仕事を続けられてきた方。
そんな二人が新たに始めることといったら、それはもう期待が膨んでしまうに決まってる!
バックパックのプロトタイプたち。機能を兼ね備えた上でのシンプルで洗練されたかたち。どの色の組み合わせも素敵! この作業場から「山と道」の道具たちが生みだされていくのです。 「まず2年間は家内制手工業でやるつもりです。ここで最後まで作ってお客さんに届けたい。」
これからこの場所で、yumiさんの手によって生地が裁断され、ミシンがけされ、バックパックやサコッシュなどの道具が生まれていくのだ。なんと贅沢、なんと愛を感じる商品たちなんだろう。
プロトタイプをいくつか見せて頂いたが、まず軽さにびっくりした。これはハイカーならではの経験に裏打ちされたもの。山を楽しむためには装備は万全に且つできる限り軽く。二人は素材を吟味し、プロトタイプを作り、これからも何度もテストを繰り返すそう。バックパックの販売開始予定の時期は年内とのこと。早くも商品の完成が待ち遠しい!
左:サコッシュ(※自転車に乗るときに斜めがけするカバン)をかける彰さん。 右:バックパックを背負うyumiさん 「山と道」サイト内では二人が考え、実践し、伝えたいことがブログ形式で綴られている。また、山好きには堪らないアメリカのジョン・ミューア・トレイルでの体験談も。ご興味のある方、こちらのサイトでこれからの「山と道」をチェックしてみてください!
「山と道」の第一弾商品となりそうなのが、このスリーピングマット。軽さはなんと75g!(現在市販されている一番軽いマットでも230gあるのだそう。)しかももともと断熱材として使われていたという素材だからこそ、断熱性能もトップという優れもの。価格は3360円(税込)の予定。