スズラン(鈴蘭)の花は大きな葉っぱに隠れるようにして花が咲きます。それを美しいと感じるのは何故なのでしょうか。
どうやら日本人には「大切なものは隠す」という美意識が古くから備わっているそうです。それは日本のアパレルやデザインの歴史などにも大きな影響を与えているようなのですが、建築計画当時のお話を伺ってこの家を拝見し、この美意識について考えてみたいと思いました。
この家は決して控えめなデザインではないのですが、なぜか大切なものがしっかりと隠されている安心感のようなものを感じるのです。おそらくそれは高低差がある敷地を読み解き、大胆なアイデアと綿密な設計が融合してできたからなのではないか。
北傾斜の土地は、一般的には敬遠されがちなのですが、現地に来てみると印象は違いました。爽やかな風が抜けて、西側方向への抜け感が素晴らしく、相模湾を遠望できて、ちょうど江ノ島もいい位置に見ることができます。そしてこの北斜面をうまく利用すればプライベートをしっかり確保しながらも開放的なプランが計画できる。このイメージを持つことができればこの土地はむしろとても魅力的です。
エントランスへは細い道からはじまります。なんといっても印象的なのは外壁の仕上げは白州そとん壁というモルタルのような塗り壁で、渦を巻いた表情が印象的。自然素材でありながら耐久性があり地球に優しく、それでいて力強い。この立地にうまく馴染んでいるように思えます。
続いて目を引くのは屋根に乗せられたパネル。こちらはOMソーラーシステムが採用されていて、大かがりな機械装置を使わずに太陽エネルギーで建物全体の温熱環境を整える仕組みとなっているのです。
このような印象的な建物外観と対峙するように、南側には程よい傾斜でお庭が広がります。1階部分は少しだけ地面に潜り込むような関係なのですが、リビング前には幅のあるウッドテラスがあるので、風と光がうまく入ってきます。
建物内部へ。玄関からパッと広がる空間はリビングとは思えないリビング。ウッドテラスと同じ床レベルで敷き詰められた緑というか碧色と言った方がしっくりくる大理石。この質感に対して白い目地が美しく感じます。インテリアレイアウトにちょっと思考が停止しそうですが、テレビを忘れて大胆に南庭側に向けて大きなソファを置いてみたい。色は白いものを入れてみたいなと個人的には思います。ガラス天板のサイドテーブルや天然石を透明樹脂で成形したものとかが似合いそう。
そしてそこから一段上がるとバーカウンターが!?ここはスタンディングスタイルかハイチェアーの本格的なバーカウンター。給排水設備もつなげることができますので、自宅でBARを楽しめます。さらにガラスの壁の向こうには業務用に見えてしまう厨房のようなキッチン。唯一、業務用に感じさせないのはチェッカーフラッグのような床。しかも大理石であるということ。確かにここは家庭用のキッチンなのでしょう。
そしてキッチンやリビングに隣接するダイニング。オリジナルではキッズコーナーとして掘り込みのサークルと円形ダイニングテーブルが並ぶ空間だったようです。現在は掘り込み部分は埋められております。ここも窓が大きくて隣の家はありますが、床や椅子に座れば青空が見える空間です。リビングダイニング壁は外壁同様、シラス(白州)材で出来ている中霧島壁。調湿や消臭効果が期待できる天然素材で、外観とはまた少し違うテクスチャも楽しめます。
1階にはこの他、キッチン脇にパントリーと、2階に上がる階段周辺にトイレと手洗いが設けられています。このトイレ洗面のタイル使いにもグッと来ますが、お楽しみは2階に待っています。ちなみに階段室はギャラリースペースも兼ねていますが詳しくは現地で。
2階は個室3部屋と書斎に畳の小上がり的な空間と水まわりで構成されています。北側に配置された8帖、6帖の洋室の間に畳の小上がり(4畳)があります。引き違いの建具をはずして一体利用しても楽しい空間になりそうです。北側の眺望は葉山のハイキングコースにもなっている仙元山の緑VIEWを眺められるのも嬉しい。
南側にはバルコニーに面した6帖洋室。ここにはさらにロフト(小屋裏収納)があるので高さもあります(写真12〜14枚目)。ランドリールームという使われ方もしていたようですが、通常の個室利用にももちろん相性がいい部屋です。この部屋からバルコニーに出て庭を見れば緩やかな斜面のおかげで立体的な庭を見ることができます。
ロフトは収納空間ですが、ここにある小さな窓から見える景色が素晴らしいのです(写真5枚目)。富士山、江ノ島が綺麗に見える海眺望!これをこっそり屋根裏から見る感じがまたいいんですよね。ちなみに2階北西角部屋6帖洋室からも海も含め同じ眺めが見えるのですが、ちょっと高さが変わるとまた違うんですよね。
さて、最後にこの家のお楽しみ、バスルームです。1階のトイレ洗面でのタイルをさらにパワーアップさせたタイル使い。洗面は2台ありニッチもタイル仕上げ。割り付けの上手さもあって個人的には詳細図が欲しいくらいです。そして浴室。もう説明不要で、とにかく入っていただきたいジャグジー。先述の海も望む浴槽は何よりのご褒美だとオーナーさんがおっしゃることもよく分かります。
いかがでしょうか。こんな風に計画できるなんて、どうしてできたのかなと思ったら、この家を建てたオーナーは海外生活が長く、日本だけで暮らしていては生まれない発想が随所に散りばめられていたのです。そし家族愛に満ちている。こうしたアイデアを取り込み、天然素材を使って仕上げた建築空間は、家族の大切にしている思いが敷地および建物全体に隠れるように咲き誇っているように私には見えたのでした。