いつも賑わう小町通りから少しだけ路地裏に入った静かな場所で、シンプルで心に残る焼き菓子を提供するお店「basic bake koto」。オープンしたのは、2022年の11月。どうやってこの物件にたどり着いたのか、またお店のコンセプトは?などなど。オーナーの飯田(はんだ)さんと、店長のトモさんにお話を伺いました。
店長のトモさん。カウンターには自慢の焼き菓子が並ぶ。 編集部:お店は小町通りから少し路地に入ったところ。愛らしいレンガ作り風の建物の一番奥で、夏になると藤棚の緑がとても美しい物件です。どうやってこの物件にたどり着いたのでしょうか?
飯田さん:私は都内で飲食店を経営していますが、趣味というか癖で、歩いていて「あ、この物件いいな!」と思ったら、勝手に「この物件だったらどんな店にするのがいいだろう。内装のレイアウトは?店のコンセプトは?」と妄想をしてしまうんです。この物件も、なんとなく鎌倉あたりで店ができないかな、と休みの日にふらっと遊びにきていて。同じ建物の一番端が定食メインの飲食店さんなのですが、たまたま見つけて昼ごはんをいただきました。お店の方がとても話しやすい方で、ちょっと世間話をしていたら「この建物の奥がずっと空いているんです」と、情報をいただきました。
え!という感じで、食後に覗いてみると確かに空室のよう。でも、不動産屋さんの看板もない。
急いでネット検索をして、これも偶然「鎌倉R不動産」の募集広告に行きつくことができました。早速問い合わせをして内見。ほぼ即決しました。
募集時のタイトルは「緑茂る小さなお店」そのまま、小さくてかわいい店となった。(写真は募集時) レンガの雰囲気が味わい深い外観に惹かれたという。 編集部:そのエネルギーがすごいですね。物件を見つけて契約するまでのスピード感も。
飯田さん:これは、いままでの妄想が役に立っている気がします。中を実際に見てみて、これならこんなレイアウトで、こんな店だ!とすぐにイメージが膨らんできたので。そして、とてもタイミングがよかったんです。
ちょうど、鎌倉在住のスタッフに、焼き菓子を製造できるような場所を持たせて任せたいと思っていたところで。当初は工房のような場所でいいと考えていたのですが、この建物のサイズ感と外観の素敵さを考えると、販売もしたほうがいいと思って、店では焼き菓子の製造販売をしています。
小町通りから裏路地に入った場所にある小さな焼き菓子店。 編集部:物件はゴールデンウィーク前には引渡しを受けて「さあここから工事をするぞ」となった訳ですが、オープンまで半年ほどかかりましたね。
飯田さん:そうなんです!笑。思いのほか契約までがスムーズだったこともありますが、引渡しを受けて、そこから工事の内容を詰めていきました。東京でお世話になっているアイアン作家さんがいるのですが、その方に内装をお任せしようと思い、打ち合わせをしていきました。とにかくアイデアがどんどん出てきて、なかなか決められない。なんてこともありましたね。最終的には、とてもかっこいいデザインに仕上がって満足しています。
実はすぐにオープンできなかった理由として、業務用のオーブンが入手困難だったこともありますね。なのでトモさんには、最初の試作を家庭用の小さなオーブンでやってもらって。それでもクオリティの高い焼き菓子を作ってくれるから、改めて「トモさんにお店を任せることにしてよかった!」と思ったり。いまとなっては、とてもいい時間でした。
内装はアイアン作家の知人に依頼。こだわりの空間に仕上げている。 入口のレンガ敷きの部分は、元々の内装。全体のテイストが上手くまとまっている。 編集部:内装工事が完了して無事に業務用のオーブンも届き、お店がオープンしました。お店で売られている焼き菓子についても教えてください。
トモさん:私は飲食店でパティシエとして勉強をし、お料理のしめくくりとして最後に召し上がっていただくデザートを作っていました。そういうデザートを作るのもとても楽しいのですが、自分らしいお菓子を考えると、原点は焼き菓子なのでは、という気持ちもあって。都内で友人たちと焼き菓子の販売をする活動もしていたんです。家庭的な焼き菓子がとにかく好きで、シンプルに粉の美味しさが伝わるものを作りたいと、いろいろ試しました。今回、鎌倉のこのお店を任されることになり、改めてどんな焼き菓子がいいだろうと考えた結果、まずは王道でシンプル。基本に忠実なものを作ろうと決めました。
可愛らしい焼き菓子が並ぶ。どれもシンプルで基本に忠実。 手土産にも喜ばれそうなサイズ感。もちろん自分用でも。 編集部:確かに、トモさんが作る焼き菓子はとてもシンプル。素材の組み合わせ方も王道で安心感があり、優しくてあたたかい気持ちになるような焼き菓子ばかり。それでいて家庭的すぎないプロの味。すごいなと思いました。
トモさん:シンプルな組み合わせが私自身とても好きなんですね。鎌倉の方は原材料についてもすごくしっかりと吟味されるので。嘘はつけないし、正直に。だからこそ、シンプルに。をモットーにしています。今後は、地元の方の好みもリサーチしながら、アレンジを加えていく予定です。
編集部:小さな単位で購入できるのも、魅力のひとつですね。
トモさん:確かに。これは、私が「友達にちょっとした手土産を選ぶ」ことが好きだからなのですが、あえて小さな単位でひとつひとつの量は多すぎず少なすぎず。いくつかを組み合わせて手土産にする。というのがしやすいように、そうしています。包装も過剰にすることなく、気取らずにさっと渡せる贈り物を意識しています。ご自身のために購入される方ももちろん多いのですが、いろいろ少しずつ試せるというのがいいみたいで、リピートしてくださる方も最近増えてきました。
そして、鎌倉のお店での販売ももちろんですが、横浜市のRe桜湯さんという銭湯をリノベーションした週末のみカフェ営業をしているお店とも繋がることができて、お菓子を提供させていただいています。こうして製造する場所を持てたからこそのご縁で、とても嬉しいことですね。
キッチンで作業する様子。小さな店だからこそ、目の届く範囲でこだわりの焼き菓子を作る。 編集部:拠点を持ったからこそ、広がりを見せるトモさんの活動にも注目ですね。鎌倉のお店には、地元の方や近隣のお店から紹介されて来ました、というお客様が多いそう。鎌倉での店づくりは地域での協力なくして成り立たないということも、学びとしてあったそうです。
店内や店先には、開店時にいただいたお花をドライフラワーにして飾っている。 飯田さん:鎌倉のお店は「お互い様」という感覚でみんなで協力しあっている感じがすごくあります。この物件とのご縁も、きっかけはご紹介ですし。そこが都内とは少し違うところかもしれないですね(もちろん、都内でもお互い様だし、仲もいいのですが)。物件のオーナーさんとも、飲食店つながりで実は仲良くさせてもらっています。
これからも鎌倉という土地で、地元のみなさんから愛される店を続けていきたいです。